教員から転職して後悔しないために
教員から転職するかどうかを考えたとき、さまざまな「不安」を感じる人が多いのではないかと思います。
「安定した仕事を手放して良いのか……?」
「学校以外の世界で自分に何ができるんだろう……?」
「民間企業で通用するスキルがあるのか……?」
私自身は、新卒で人材系企業に入社したのち、中学校の英語教師に転職しました。教諭として数年勤務したのち、人事異動で教育委員会所属となり指導主事として勤務し、計10年間学校教育に携わりました。
現在は起業し、コワーキングスペースの経営とキャリアコンサルタントの仕事をしています。
私が教員から別の道に進んだのは、教員の仕事が嫌いになったからではありません。むしろ、教員の仕事には強いやりがいを感じていました。
ただ、教員、教育委員会、そして起業という経験を通して強く感じたことがあります。
それは、仕事を選ぶうえでは「できる仕事」と「自分に合う仕事」は分けて考えたほうが良いということ、そして「自分に合う仕事」を見分けるには一定の時間が必要だということです。
本コラムのコンセプト
生成AIによる一般的な情報がすぐに手に入る時代。就活生や求職者にいま求められているのは、経験や体験に基づく血の通ったアドバイスではないか。そうした読者のニーズに応えるために、編集部がテーマを選定し、参画するキャリアコンサルタントらに寄稿いただくコラム企画を始めました。自身の経験や実アドバイスをベースに、綺麗事を一切排除した本音の就活対策をお届けします。
教員の仕事が嫌いだったわけではない
私はもともと、教員という仕事にかなり強いやりがいを感じていました。英語教師として生徒の前に立ち、授業を工夫し、英語好きな生徒を増やしていくことは、自分の個性に合っている感覚があり、日々充実した気持ちで働いていました。
転機になったのは、教員6年目の終わりに教育委員会への異動を打診されたことです。最初は現場に残りたい気持ちもありましたが、市全体の英語教育を良くできるなら、それも意味のある仕事だと思い、指導主事になることを選びました。
実際、市全体の英語教育に関われたことは非常に大きなことでしたし、成果も出せました。しかし、その一方で強く感じたことがあります。それは、役人として働くことが、自分の価値観とは根本的に合わなかったということです。
「立場」を優先する働き方が合わなかった
教育委員会で働くなかで、私が特に苦しかったのは、自分の意思よりも「立場」を優先しなければならない場面が非常に多かったことです。
もちろん組織で働く以上、そういうことは理解していました。民間企業で働いていた経験もあったので、それ自体を否定するつもりはありません。ただ、そのつらさが一層強く感じられたのです。
給料は良かったですし、社会的な信用も高い仕事でした。周囲からは「勝ち組じゃん」と言われたこともあります。周囲から見れば、安定して評価もされている。仕事の成果も出ていました。それでも、朝起きるたびに「また仕事か……」というネガティブな感情が消えませんでした。
その経験を通して、私は人から言われたことをそのまますることや、自分が納得していないことを立場上進めていくことに、かなり強いストレスを感じるタイプなのだということがはっきりわかりました。
キャリアを考えるうえでは、こうした自分の根本的な性質を無視しないほうが良いと思っています。
「できる仕事」と「合う仕事」は違う
民間企業、教員、教育委員会でも一定の成果は出ていました。つまり、仕事は「できていた」のです。しかし「自分に合っている」という感覚は仕事によってまったく異なりました。ここは、教員から転職を考える人にとっても大事なポイントだと思います。
今の仕事がつらいとき、その理由が単なるスキル不足や経験不足であれば、経験を積むことで解消される可能性があります。
解消できる可能性の高い悩みの例
- 授業がうまくいかない
- 保護者対応がつらい
- 校務分掌の進め方がわからない
上記の悩みは、時間と経験によって「できる」ようになることで軽くなることがあります。私も教員1〜2年目は、毎日不安やストレスを抱えていましたが、やり方がわかるようになることで楽しい気持ちが大きくなっていきました。
しかし、仕事ができるようになっても、どうしても苦しさがあったり、違和感が消えない場合があります。その場合、仕事内容や職場環境が自分の価値観と根本的に「合っていない」可能性があります。
私の場合は「自分の意思で動けるかどうか」がかなり重要でした。だから、管理職として学校現場に戻る道もありましたが、最終的には起業を選びました。
雇用される働き方そのものが悪いわけではありません。ただ、自分にとっては、時間やお金、仕事の進め方を自分で決められる環境のほうが「合っている」と判断したからです。
教員が転職で不安になる理由
教員から転職したい人の相談を聞いていると、「自分には何ができるんだろう」という不安を持つ人が多いと感じます。
学校という組織は、民間企業とは文化がかなり違います。仕事の進め方、評価のされ方、求められるスキル、使われる言葉も違います。そのため、教員は自分の経験を民間企業向けにどう伝えれば良いのかがわかりにくいのです。
また、教員は一般企業の新入社員研修で学ぶような、電話応対、ビジネスメール、名刺交換、報連相、数値での成果管理などを、体系的に学ぶ機会が少ないまま働いていることも多いです。だから、学校の外に出ようとしたときに「自分は社会人として通用するのだろうか」と不安を感じやすいのです。
しかし、民間企業でも十分に評価される経験やスキルはたくさんあります。
教員経験はビジネスの言葉に翻訳できる
| 教員経験の例 | ビジネスへの置き換え例 |
|---|---|
| 学級運営 | 集団マネジメント |
| 保護者対応 | 顧客対応 |
| 授業計画の策定、テスト実施 | PDCAサイクルの実施 |
| 行事運営、予算管理、関係者調整 | プロジェクトマネジメント |
たとえば、35人の学級を運営していた経験は、集団をマネジメントしていた経験です。保護者対応は、顧客対応やクレーム対応に近い経験としてアピールできます。
授業を計画し、実施し、生徒の反応やテスト結果を見ながら改善していくことは、PDCAを回して成果を出した経験です。
修学旅行や学校行事の運営、予算管理、関係者との調整などは、プロジェクトマネジメントに近い経験として伝えることができます。
具体的な人数や、規模、成果、工夫を入れて表現すると、学校外の人にも伝わりやすくなります。教員の経験は、そのままでは伝わりにくいですが、翻訳すれば使える経験は十分あります。
教員から転職できる仕事
また、教員から転職できる仕事は幅広くあります。
教員から転職できる仕事
- 教育関連企業
- 学習塾
- 研修講師
- 人材業界
- 営業
- カスタマーサポート
- 事務職
- 自治体関連の仕事
- 福祉・支援系
- 専門職(エンジニア・デザイナーなど)
教育関連企業(教材販売、教育系システム販売等)、学習塾、研修講師、人材業界、営業、カスタマーサポート、事務職、自治体関連の仕事、福祉・支援系の仕事など、選択肢は多いです。
保護者対応が得意な人は、営業やカスタマーサポートでも力を発揮しやすいと思います。相手の話を聞き、状況を整理し、納得感のある説明をする力は、多くの仕事で求められます。
授業づくりが得意な人は、研修講師、教材制作、教育系サービスの企画などに向いている可能性があります。
行事運営や事務作業が得意な人は、バックオフィスやプロジェクト管理系の仕事でも経験を活かせるかもしれません。
20代であれば、未経験でもかなり幅広い分野に挑戦できると考えて良いと思います。エンジニアやデザイナーのような専門職も、未経験から挑戦できる求人はたくさんあります。ただし、年齢や実務経験の壁は実際にあり、30代半ばを過ぎると、まったくの未経験職種への転職は難しくなるので注意が必要です。
ぜひ前向きに考えてもらいたいのは、「学校教育」という、非常に特殊な業界知識を持っているのは売りになるということ。
学校外の人は学校という閉ざされた環境で、どのようなことがおこなわれているのか、また、そこにかかわる人がどういった感覚を持っているのかがわからないのです。
教員から転職するために必要な準備
教員から転職するために必要な準備は、やはり王道の2つです。
ひとつは「自己理解」を深めること、もう一つは「仕事理解」を深めること。教員はこの二つとも、かなり情報が少ないように見受けられます。
自己理解をする
自己理解については、自分は何が得意なのか、何にストレスを感じるのか、どんな環境なら力を発揮できるのか、譲れない価値観は何なのかなどを把握しましょう。
これらを整理しないまま転職すると、別の職場に移っても同じような違和感を抱える可能性があります。
仕事理解を深める
もうひとつは、仕事理解を深めること。世のなかにはどんな業界や職種があるのか、その仕事では何が求められるのか、未経験でも挑戦できるのかなどを理解しましょう。
教員は、学校外の仕事に関する情報が不足しやすい環境にいます。だからこそ、意識的に学校の外の情報を取りに行く必要があります。
たとえば、求人サイトを見る、転職エージェントに相談する、ハローワークを使う、転職フェアに参加する、学校外の知人に話を聞く、どれも有効です。
特におすすめなのは転職フェアや、学校外の人との交流です。ネット検索だけだと、自分がすでに知っている業界や興味のある仕事に情報が偏りがちです。しかし、実際に人と会って話すことで、今まで知らなかった仕事や価値観に触れることができます。
教員は、どうしても人間関係や情報が学校内に閉じやすい仕事です。だからこそ、外の世界に触れること自体が、転職準備になります。そこで知り合った人のつてや縁が転職のきっかけになったというケースもあります。
自分の価値観を押し殺さない選択を
教員という仕事は、安定性が高く、社会的信用もある仕事です。そのぶん教員からの転職は、さまざまな迷いが生じやすいもの。大切なのは違和感の正体を丁寧に見つめることです。
忙しいからつらいのか。
人間関係がつらいのか。
仕事がうまくできないからつらいのか。
それとも、自分の価値観と働き方が根本的に合っていないのか。
そこを見極めることが後悔しないキャリア選択につながります。私の場合、教育委員会での経験を通して、自分は自律性を強く求める人間なのだとわかったので、起業という道を選びました。今はその働き方が「自分に合っている」と感じています。
教員から転職したいと思ったときは、まず自分のなかにある違和感を無視しないでください。丁寧に原因を切り分け、言葉にして、自分自身のことを把握しましょう。
同時に学校の外とのつながりを作り、しっかりとした情報をもとに納得できる選択をしてほしいと思います。
執筆・編集 PORTキャリア編集部
> コンテンツポリシー記事の編集責任者 熊野 公俊 Kumano Masatoshi




