
就活鬱になるのは無理をしてきたサイン
就活は、単に「会社を選ぶ活動」ではありません。多くの学生にとって、自分の価値を評価されるように感じたり、将来の不安と向き合わされたりする時期です。
医師として相談を受けていると、就活をきっかけに気分の落ち込み、不眠、食欲低下、涙もろさ、焦燥感などが出てくる方は少なくありません。
実は、私自身も医師になる前に、いわゆる就職氷河期の就活を経験しました。書類選考には通るのに、面接で落とされ続ける。
頭では「企業との相性もある」とわかっていても、そのたびに「自分は社会に適合できないのではないか」という言いしれない不安が押し寄せ、強い焦りを感じていました。
だからこそ私は、「就活がつらい」と感じることを、単なる甘えやメンタルの弱さとは考えていません。
就活は、その人がもともと抱えている不安、自己否定、完璧主義、周囲との比較を一気に表面化させる場面でもあります。就活鬱は「弱さ」ではなく、その人が無理をしてきたサインとして捉えることが大切です。
本コラムのコンセプト
生成AIによる一般的な情報がすぐに手に入る時代。就活生や求職者にいま求められているのは、経験や体験に基づく血の通ったアドバイスではないか。そうした読者のニーズに応えるために、編集部がテーマを選定し、参画する専門家に寄稿いただくコラム企画を始めました。自身の経験や実アドバイスをベースに、綺麗事を一切排除した本音の就活対策をお届けします。
そもそも「就活鬱」とは何か
「就活鬱」は正式な医学的診断名ではありません。医学的には、うつ病、適応障害、不安症状、不眠症などとして評価されることが多いです。
就活をきっかけに、気分が落ち込む、何もやる気が出ない、眠れない、涙が出る、面接やESのことを考えるだけで動悸がする、といった状態が続く場合、いわゆる「就活鬱」と呼ばれる状態に近いと考えてよいでしょう。
大切なのは、「まだ診断がつくほどではないから大丈夫」と我慢しすぎないことです。医学的な診断名がつく前の段階でも、生活に支障が出ているなら、十分にケアが必要な状態です。
就活鬱で見られやすい症状
就活鬱では、気分の落ち込みだけでなく、身体症状として現れることも多いです。
たとえば、夜に考え込んで眠れない、朝起きられない、食欲が落ちる、逆に過食になる、頭痛や腹痛が増える、電車に乗るだけで気分が悪くなる、といった症状です。
精神面では、「自分には価値がない」「周りは内定を取っているのに自分だけ遅れている」「面接で否定された気がする」と考えやすくなります。実際には企業との相性やタイミングの問題であっても、本人の中では人格全体を否定されたように感じてしまうのです。
私自身も、面接で落ち続けていた当時は、単に「その会社に合わなかった」とは受け止められませんでした。「書類では評価されるのに、実際に会うと落とされる」という経験が重なると、自分の話し方、人柄、社会性そのものを否定されたように感じてしまうのです。
この感覚は、就活生にとって非常に大きな負担になります。
就活で鬱になってしまう理由
私が臨床で感じるのは、就活の苦しさは「不採用そのもの」だけではなく、評価基準がよくわからないまま比較され続けることにあります。
試験であれば点数があります。しかし就活では、「人柄」「コミュニケーション能力」「主体性」「カルチャーフィット」など、曖昧な言葉で判断されます。
そのため落ちた理由がわからず、「自分の何が悪かったのか」と延々と考えてしまう人がいます。
私自身も、書類選考には通るのに面接で落ち続けたとき、「能力がない」というより「人として何かが足りないのではないか」と感じていました。
今振り返れば、面接には企業側の事情、相性、時代背景、面接官との組み合わせなど、自分ではコントロールできない要素が多くあります。しかし渦中にいると、すべてを自分の欠点として引き受けてしまいやすいのです。
また、就活では自分を魅力的に見せることを求められます。自己PRやガクチカを作る過程で、「自分には語れる経験がない」と感じる人もいます。
しかし、目立つ実績がないことと、人として価値がないことはまったく別です。この2つを混同してしまうと、就活は非常につらいものになります。
就活鬱になりやすい人の特徴
就活鬱になりやすい人には、いくつか共通点があります。
就活鬱になりやすい人の特徴
- 真面目で責任感が強い
「ちゃんとしなければ」「親に迷惑をかけてはいけない」「失敗してはいけない」と考えすぎる人ほど、就活を自分一人で抱え込みやすくなります。 - 他人の評価に敏感
他人の評価を気にする人は、面接官の表情、友人の内定報告、SNSの投稿などに強く影響され、自分のペースを見失いやすくなります。 - 白黒思考が強い
「第一志望に落ちたから終わり」「内定がない自分はダメだ」と考えると、選択肢が狭まり、精神的に追い込まれていきます。
私自身の経験からも、就活で苦しくなる人は、決して努力不足の人ではありません。むしろ、真剣に将来を考え、自分なりに準備を重ねている人ほど、「これだけやっても報われない」という感覚に傷つきやすいのだと思います。
実際に見られる就活鬱の例
たとえば、ある学生は「面接でうまく話せなかった。自分は社会に必要とされていない」と話していました。本人は面接の失敗が原因だと考えていましたが、私はそれだけではないと感じました。
背景には、「失敗してはいけない」「人から評価されなければ価値がない」という思い込みがありました。就活によって、その思い込みが一気に刺激されていたのです。
このような場合、必要なのは単に面接練習を増やすことではありません。むしろ、「面接の合否」と「自分の価値」を切り離すことが重要です。
面接は相性確認の場であり、人格判定の場ではありません。この視点に切り替えられると、少しずつ就活との距離感を取り戻せることがあります。
落ちたとしても、人格が否定されたのではなく、その時代、その企業、その面接の場との相性が合わなかったという面も大きいと思います。就活中は、この区別がとても難しいのです。
就活で鬱っぽくなったときの対処法
就活鬱を感じた際は、以下の対応をとってみてください。
就活鬱を感じたときの対処法
- 就活の量を減らす
完全に休むのが難しければ、エントリー数を減らす、SNSを見ない、就活情報を浴びる時間を制限するだけでも効果があります。 - 生活リズムを守る
就活がつらいと、夜に検索を続けたり、朝起きられなくなったりしやすいです。しかし睡眠が崩れると、不安や抑うつはさらに強くなります。「寝る時間」「起きる時間」「食事」を整えることが、精神面の土台になります。 - 一人で抱えない
大学のキャリアセンター、学生相談室、家族、友人、医療機関など、相談先は複数あってよいです。特に、眠れない、食べられない、死にたい気持ちがある、日常生活が大きく崩れている場合は、早めに心療内科や精神科に相談してください。
就活鬱を予防するためにできること
就活鬱を予防するためには、以下を心がけてください。
就活鬱を予防するために心がけること
- 就活を人生の総合評価にしない
- 逃げ道を作る
就活では、どうしても内定の有無がわかりやすい結果として見えてしまいます。しかし、内定が早い人が優れていて、遅い人が劣っているわけではありません。
企業との相性、準備のタイミング、面接官との組み合わせなど、本人の努力だけでは決まらない要素が多くあります。
また、最初から逃げ道を作っておくことも有効です。たとえば、就職浪人、大学院進学、既卒就活、中小企業、地域企業、別職種など、選択肢を広く持つことです。逃げ道というと悪く聞こえるかもしれませんが、医学的には「選択肢がある」と感じられることは、心の安全性につながります。
私自身も、結果的には医師という別の道を選びました。もちろん誰もが大きく進路変更をする必要はありません。ただ、一つの就活の結果だけで人生全体が決まるわけではない、ということは強く伝えたいです。
遠回りに見える道が、その後の自分にとって意味を持つこともあります。
就活生に伝えたいこと
就活で苦しくなる人は、弱い人ではありません。むしろ、真面目に考え、自分の将来に向き合っているからこそ苦しくなります。
ただし、苦しさを我慢し続けることが正解ではありません。就活は大切ですが、心身を壊してまで続けるものではありません。いったん立ち止まること、休むこと、相談することは、逃げではなく回復のための戦略です。
私は、就活鬱の本質は「内定がないこと」ではなく、「内定がない自分には価値がない」と思い込んでしまうことにあると考えています。私自身も、面接で落とされ続けたときには、社会に適合できないのではないかという不安に苦しみました。
しかし、今振り返ると、その時点の就活の結果は、私という人間の価値を決めるものではありませんでした。
就活の結果は、あなたの一部を表すことはあっても、あなた全体の価値を決めるものではありません。
つらくなったときは、就活を少し横に置いて、「自分は今、かなり無理をしているのかもしれない」と考えてみてください。その気づきが、回復の第一歩になります。
執筆・編集 PORTキャリア編集部
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