
そもそも「仕事」とは何か?
就職活動中の学生も、今働いている社会人も、さまざまな立場の人が一度は立ち止まって考えたことがあるテーマではないでしょうか。それだけに重くて奥深い、正解のないテーマです。
「なんのために働くのか」について考えていく前に、ここで一度「仕事とは何か」を考えてみます。デジタル大辞泉からの引用によると「仕事」とは、
“何かを作り出す、または、成し遂げるための行動。生計を立てる手段として従事する事柄。職業”
と表記されています。辞書によって表記は異なりますが、収入を得るための行動として記載されているものが多いです。
上記をふまえつつ、私は「働く理由」は大きく分けて2つあると考えています。
1つ目は、生活するにあたって、必要最低限の収入を得ること。
2つ目は、自分が価値を感じているものを得ること。
潤沢にお金を所持していて、収入を得なくても生活できるという状況でなければ、大多数の人が人生の多くの時間を仕事に費やします。
その大切な時間に「収入以外にどんな価値を求めるのか」「どういう自分でありたいのか」が働く理由につながります。
本コラムのコンセプト
生成AIによる一般的な情報がすぐに手に入る時代。就活生や求職者にいま求められているのは、経験や体験に基づく血の通ったアドバイスではないか。そうした読者のニーズに応えるために、編集部がテーマを選定し、参画するキャリアコンサルタントらに寄稿いただくコラム企画を始めました。自身の経験や実アドバイスをベースに、綺麗事を一切排除した本音の就活対策をお届けします。
求職者支援の現場で出会った多様な「働く理由」
求職者支援の現場で出会った多様な「働く理由」
私がこれまでキャリアコンサルタントとして支援してきた求職者の事例を振り返ると、「働く理由」の多様さが見えてきます。
①50代事務職の求職者の場合:能力発揮の裏にあった「居場所を求める気持ち」
一人目の求職者は、長年事務職として勤務されてきた50代の人です。
面談当初は「自分のこれまでの能力を仕事で活かすこと」を最重要事項として挙げていました。しかし、面談回数を重ね、本音を深掘りしていくと、実は「安定した人間関係・コミュニティ」を職場に強く求めていたことがわかりました。
彼女にとって働くことによって見出していた価値は「能力を活かすこと」だけではなく「自分が、誰かとつながっている実感を得ること」だったのです。
②20代学生の場合:趣味を最大化するための「手段」
また別の20代の学生は、仕事に対して非常に割り切った考えを持っていました。
その学生が求めたのは「安定した勤務時間・環境と収入」であり、また「自分の苦ではない仕事内容」であることでした。
働く理由は、仕事そのものにあるのではなく、仕事以外の時間で行う「趣味」に全力を注げる環境を維持すること。
その学生にとって仕事は、人生を豊かにするための手段でした。
仕事をする理由に他者への貢献性は絶対必要?
ビジネスとは他者への貢献をして対価をもらうこと。そのため、企業はもちろん社会に何を貢献したいかを求めてきます。
しかし、アメリカの心理学者であるマズローが提唱した有名な理論、人間の根源的欲求の5段階説では全て自分の欲求を中心に説明されています。
この説はピラミッド型になっており、下位の欲求が1となり上位の欲求が5となっています。
マズローの欲求5段階説
- 生理的欲求(生きていくための基本的欲求、食欲・睡眠欲など)
- 安全欲求(心身の安全・経済的に安定した生活)
- 社会的欲求(仲間が欲しい・集団に属したい)
- 承認欲求(他者から認められたい)
- 自己実現欲求(理想の自分になりたい)
実はマズローは晩年、最高位の第6の欲求である自己超越欲求の存在を明らかにしています。これは、他人のために何かをしたい、課題を解決したいと考える他者や社会への貢献の欲求です。
このピラミッドが示す通り、まずは自分の土台となる下位の欲求が満たされていないと、その上位にある社会への貢献性に目を向けることは非常に難しいです。
もしあなたが「誰の役に立ちたいかわからない」「社会の何の課題を解決したいかわからない」と悩んでいるなら、それは至極当然のこと。
そんなことが最初からわかっている人の方が少ないですし、まずは「自分を満足させること」から考えていいのです。
私自身の経験:「誰かに貢献する」前に自分自身の充足感が必要だった
私も働き始めた頃、働く理由や自分の欲求について深く考えていませんでした。
実は最初の仕事として選んだのは看護師でした。選んだ理由は「人の役に立ちたい」「手に職をつけて経済的に自立したい」という2つ。当時はその2つしか考えていませんでした。
しかし実際に働き始めると、命を預かるプレッシャー、夜勤の過酷さ、医療現場特有の閉鎖的な人間関係が、じわじわと私を削っていきました。
「患者さんの役には立っている。でも、自分自身はまったく幸せではない」
そう気づいたとき、初めて「自分が本当に求めているものは何か」を考えるようになりました。25歳で医療職を離れ、一度立ち止まって自分と向き合った結果、今のキャリアコンサルタントという仕事に辿り着いています。
あのとき気づいたのは、「誰かの役に立つこと」と同じくらい、「自分が心身ともに健やかでいられる環境」が私には必要だということでした。
「なんのために働くか」は十人十色
これまでの支援経験と私自身の経験から、私が確信していることが一つあります。
「なんのために働くか」に、こうあるべきという正解はありません。
「お金のため」「成長のため」「趣味のため」――どれも自分本位に聞こえるかもしれません。
でも自分の人生において、自分が納得して働けるなら、それが自分にとっての最適解です。働く理由は、状況や環境が変われば変わっていい。仕事に人生の意味を求めなくてもいい。最初から立派な目的がなくてもいい。私はそう考えています。
「なんのために働くか」を見つけるためには
「なんのために働くか」を見つけるためには?
ただ今これを読んでいるあなたは「働く理由」について多少なりとも、もやもやを抱えているはず。それを解消するための具体的な方法もお伝えします。
①今の自分は何に価値・不満を感じているかを書き出す
「立派な働く理由」を探そうとする前に、まず自分の本音に向き合ってみてください。先ほどのマズローの欲求段階も参考にしながら、今の自分は何に価値を感じていて、どこが満たされていないかを考えてみましょう。
すべての欲求を100%満たすことは難しい。ただ、「これが満たされていれば働いていける」と思える優先順位の高いものを1〜2つ見つけることが大切です。
②理想の「1週間のスケジュール」を具体的に書き出す
次に、もっと具体的なイメージを持ってみてください。理想の1週間はどんな過ごし方をしているでしょうか。
「平日は18時に退社して、夜は趣味に没頭したい」のか、「仕事の中でいろんな人と交流しながら充実感を得たい」のか。
自分の理想の生活を可視化することで、それを創りだすために仕事に何を求めるかが自然と見えてきます。
おわりに:「なんのために働くか」に100%自信を持っている人はほぼいない
ここまで「働く理由」について考えてきましたが、世の中の大人で、「自分の働く理由はこれだ!」と100%の自信を持って答えられる人は、ほぼいません。
多くの人は、迷い、揺れながら、その時々の自分に折り合いをつけて働いています。
就活や面接で「軸」を問われると、確固たる理由があるように振る舞わなければならない場面もあります。でも実際には、そんなに明確な答えを持っている人は少ないのが現実です。
大切なのは、一生変わらない完璧な働く理由を今すぐ見つけることではなく、今の自分を納得させられる働く理由を見つけることです。
建前を脇に置いて、肩の力を抜いて。今の自分が少しでも納得できる理由を探すことから始めてみてください。
そうして一歩ずつ進んだ先に、あなただけの「働く理由」が少しずつ形作られていくはずです。
執筆・編集 PORTキャリア編集部
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