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田園風景が流れ行く車窓。列車を乗り継ぎ、草木に囲まれた小道を抜けていくと、そこには木彫り彫刻家のはしもとみおさんのアトリエがありました。
いま、ここにある命を形にして未来に残すはしもとさんの元には、世界中から作品制作の依頼が届いています。
材料となるクスノキの香りが満ちたアトリエで、柔らかい光に包まれながら今日も動物の木彫り彫刻を彫る。どうしてそこまで作り続けられるのか、何をきっかけにその仕事を選んだのか。
今回、就活やキャリアに関するお話をたっぷりお聞きしました。
| ▼はしもとみお プロフィール 1980年、兵庫県生まれ。三重県いなべ市在住の木彫り彫刻家。 いのちや動物をテーマに、いまそこで生きているありのままの姿を原寸大の木彫りで残す作品を作る。木彫り彫刻のほか、ミニチュア彫刻やイラスト、絵本制作なども幅広く手がけ、原型の制作を担った動物のカプセルトイは全国的な大ヒットを記録。各地の美術館で展覧会を開催しているほか、『情熱大陸』(毎日放送)出演をはじめ、メディアへの登場多数 公式サイト:はしもとみおホームページ SNS:YouTube / X(旧Twitter) / Instagram |
※本記事は連載記事です。続編が公開され次第リンクが更新されます。
1記事目:「言葉にならない『好き』に従う」。彫刻家・はしもとみおが就活生に伝えたい「自分軸の彫り方」
2記事目:「周囲の反対は、未来からの挑戦状」獣医志望から彫刻家へ。はしもとみおが語る「やりたい」の貫き方
3記事目:どうすれば「はしもとみお」になれますか? 理想をかなえる環境・仕事の選び方
4記事目:本記事
5記事目:9月上旬に公開予定
6記事目:9月上旬に公開予定
はしもとみおのアトリエ誕生秘話

──それにしても、はしもとさんのアトリエは本当に居心地が良いですね。温かな生活がちゃんと宿っているというか。それと、キッチンがあるのも驚きました。
そう言っていただけて嬉しいです。いまは東京との2拠点生活をしているので、ここは結構、別荘みたいな感覚かもしれません。キッチンがあることもすごく大切で、私にとって料理はある種創作みたいな感覚なんです。
何を作るか選ぶ。食材を選ぶ。道具を選ぶ。彫刻と似ているでしょう? そのうえ食事はじかに身体に取り入れるものだから、やっぱり気を遣いたいんですね。居心地の良いキッチンは外せない要素でした。
そうそう、水道は山から流れてくる水をそのまま引いているから、お水さえもとってもおいしいんですよ。そこも気に入っている部分ですね。

よく手入れされた台所道具が並びます
──自然豊かな土地ならではの魅力ですね。三重を活動拠点に選ばれたのも、それが理由ですか?
というよりも、ご縁に導かれて、といったほうが近いですね。実はここも自分で見つけたわけではなくて、紹介していただいてつながった場所なんですよ。
愛知の大学院に通っていたこともあって、ここをアトリエにする前は名古屋の方に家を借りていました。ただご覧の通り、木彫りは小さいものだけではなくて、とても大きなものを彫ることもたくさんあります。当然の話ですが、木彫りが増えれば増えるほど、どんどん部屋が狭くなっていったんですね。それでもっと広い家を探すことにしたんです。

クスノキの清潔な香りが漂います
それから展覧会で沖縄に行ったときに、「三重に空き家があるんだけど使う?」と声をかけていただくことがありました。紹介いただいた空き家はこのアトリエから2kmくらい離れた場所にあってすぐに移り住んだんですが、古民家だったこともあってシロアリなんかも出てきちゃって。それに何より、そこでもあっという間に作品で部屋が手狭になってしまったんです。
で、とにかくもっと大きなものが作れて、どっしり腰を据えて制作に打ち込めるアトリエを探そうと決めて動き出します。そしたらね、近所の材木屋さんから「そういや仏壇屋の倉庫が空いとるらしいぞ」って言われて。もうね、私ってそんなことばっかりなんです(笑)。周りが助けてくれることがとても多くて、それでこのアトリエに移り住んできたわけです。
誠実な仕事が縁を呼ぶ

──縁が縁を呼んで。すごいです。でも、それはやっぱり「はしもとさんだから」な気もします。
このアトリエの持ち主だった方が、もともと私を知ってくださっていたことは大きく影響しているとは思います。「ああ、あの木彫りの」って。だから、私自身というよりも、生み出した作品たちが一人歩き回って私に縁を運んできてくれている感覚です。その点では、作品を作って、展覧会を開いて外につながってきたことはとても重要なことだったと思います。
縁というのは馬鹿にできません。目には見えないし、具体的にどうこうできるものでもないけれど、まごころをもって人と接して、どんどん外の世界に開いていくことは、必ずいつか自分を助けてくれるんだと実感しています。

違和感を信じたら良いことが起きた
それと、作品を手放さなかったことも大きな要素だと思います。美術の世界ではギャラリーに所属してお客さんに作品を売る、というのが主流だと思うんですけれど、私はその構造に対して、少し胸につっかえるものがあったんです。買いたいと思ってもらえることはとてもうれしいけれど、一度渡してしまえば、その子はこれから一人のために生き続けることになる。
でも、私が手放さず、全国の展覧会に連れて行ったら? そのたびに何千何万もの人に見てもらえて、撫でてもらって……そうやって多くの人に愛されている姿を想像したとき、やっぱり売るのはやめようって思ったんです。

──自分なりの違和感を見逃さなかったから、今があるんですね。
はい。今日100円で暮らすことになっても、それを売ったほうがずっといい生活ができたとしても、未来でもっとたくさんの人に愛してもらえることのほうが、私の中の天秤が傾いた。
結局手放さなかったから各地の展覧会でたくさんの作品をお貸しすることができるようになったし、それが仕事にもなっていった。良いことばっかりが起きたんですね。違和感をそのままにせず、心が思う方を信じてよかったと強く思います。
この子たちを見て、撫でてくれた一人ひとりと縁ができたこと。それがとても嬉しいし、何より、今の私を助けてくれています。
なりたい自分になれる「鉢」を選ぶ
──縁が導いたこのアトリエ。ここで暮らし始めて変化したことはありましたか?
倉庫を改装したこのアトリエは高さも幅もあるので、大きなものを作れるようになったことが一番の変化でした。そうだ、ここに移り住んですぐに丹波竜のレリーフの彫刻依頼が舞い込んだんですよ。
でもそれ、頭の先があそこの薪ストーブにきて、しっぽの先端はあっちのピアノのところまで届いて、なんと全長約7メートル。これまでやったことのない巨大なサイズの依頼でしたが、今の説明の通り、このアトリエにはちょうどぴったり収まったんです。この不思議な現実に、当時はスタッフのみんなと盛り上がったなあ(笑)。前の家では絶対作れないサイズの依頼でした。

──アトリエを変えた途端、そこでしか作れない依頼が舞い込んだ。偶然とはいえ、運命的なものを感じます。
でしょう! 私もそう思います。環境を変えることで手に入れられるチャンスもまた変わっていく。そもそも、環境とは受け皿。植物でいえば「鉢」のようなものです。大きく育つはずの植物も、鉢が小さければ根も十分に伸ばせず、その鉢に合ったサイズにしか身体を伸ばすことができません。
環境が成長を左右するということは事実です。だから、自分がなりたい自分があるなら、その目標を遂げられるサイズの鉢──すなわち「企業」を選ぶことはとても大切なんですね。もちろん、それは大きければ大きいほどいいということではないですよ。大切なのは、自分が理想とするものは何なのかを理解して、それに見合った環境を選ぶことです。
ただ大きいからとサイズの合わない鉢に種を植えると、根腐りを起こして芽すら出ないこともありますから。
時間は切り売りせず経験と交換する

いまや転職が当たり前の時代。自分で自分の未来を切り開いていかなければならない時代だからこそ、必要となればどんどん鉢を変えていく意識をもつことも大切でしょうね。どんな仕事が残るのか、どんな仕事が消えていくのかは誰にもわかりませんが、「これなら一生安定」という仕事はもはや存在しないことだけは確かですから。
──「自分にマッチした鉢」を探すためには、まず何から始めれば良いでしょうか?
社会とつながることです。たとえば、インターンやアルバイトでしょうか。ただアルバイトをすると言っても、時給の高さとかで選ぶのではなくて、やってみたいことに直結するアルバイトを選ぶ。これが大切です。
たとえばファッションにかかわる仕事がしたいなら、アパレルの販売員とか。とにかく興味のある環境を間近で見られる、体験できるものを選んでほしい。体験してわかることって本当にたくさんあります。ますます楽しく思えることも、これはあんまり得意じゃないなって思うこともわかってくる。すると目指したい自分、仕事でもいいですね、それがだんだん具体的になるはずです。ゴールがはっきりしていないと、選ぶべき鉢のサイズも種類も考えられませんから、まずはここの見極めが大切です。
体験した結果見えてきた自分の求める未来の形。それさえはっきりしてしまえば、あとはそれがどんな環境なら近づけていけるのかを、引き続き働きながら整理するだけだから簡単です。

ものづくりを仕事にしたい人なら、もう今から自分で売ってみるのも良いですね。いまは手軽にオンラインで販売できるECサイトも多いですし、物書きになりたいならnoteで有料記事を書いてみたりとか。やりようはいくらでもあります。まずは仕事にするということにチャレンジしてみましょう。
人それぞれに事情があるので、何でもかんでも好きな仕事をできるわけではないとは思いますが、二度と返ってこない貴重な学生期間。それを切り売りしてお金と交換するだけに使うのは、私はもったいないと感じる。せっかくなら、経験と──つまりチャンスをつかむチケットと交換するほうが、ずっとお得だと思いますよ。
嫌なことは嫌と言う
あとは、そうですね。私なりの仕事のこだわりとして、嫌なことは絶対やらないって決めています。昔からそうなんですね。嫌なことは嫌だと絶対に言う。すると、まわりからも「この人はこれはやらないんだな」と思われて、自分で認識している自分の輪郭と、客観的な輪郭がそろっていく。そうなると、不思議と自分にぴったりな仕事しか回ってこなくなるんですね。

これは会社で働くことでも同じだと思います。もちろん指示は受け入れないといけないけれど、絶対の絶対にこれはやりたくない、自分という人間として許せない、そういったラインをもつこと、そしてそれをしっかりと伝えることは大切です。
そうやって、自分の意思で自分に合った環境を引き寄せて作り上げていくというのも、これから社会に出ていく皆さんには伝えておきたいことの一つです。志望先の社長さんだって、何でも言うことを聞くロボットが欲しいから採用しているわけではないはずです。だってそれなら、AIを導入すればいいですからね。
あえて時間と手間をかけて人を採用するのは、人だからできることがそこにあるから。人はそれぞれ個性があって、やりたいこと、やりたくないこと、得意なこと、苦手なことがある。それが当たり前です。それをきちんと言葉で伝えて、相手の意見も聞いて、お互いの納得をもって仕事に取り組んでいく。それこそが働くということだと思うし、そうして初めて、人の手でやるからこその仕事の価値が生まれていくのではないでしょうか。

取材・執筆・撮影:小林駿平
執筆・編集 PORTキャリア編集部
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