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田園風景が流れ行く車窓。列車を乗り継ぎ、草木に囲まれた小道を抜けていくと、そこには木彫り彫刻家のはしもとみおさんのアトリエがありました。
いま、ここにある命を形にして未来に残すはしもとさんの元には、世界中から作品制作の依頼が届いています。
材料となるクスノキの香りが満ちたアトリエで、柔らかい光に包まれながら今日も動物の木彫り彫刻を彫る。どうしてそこまで作り続けられるのか、何をきっかけにその仕事を選んだのか。
今回、就活やキャリアに関するお話をたっぷりお聞きしました。
| ▼はしもとみお プロフィール 1980年、兵庫県生まれ。三重県いなべ市在住の木彫り彫刻家。 いのちや動物をテーマに、いまそこで生きているありのままの姿を原寸大の木彫りで残す作品を作る。木彫り彫刻のほか、ミニチュア彫刻やイラスト、絵本制作なども幅広く手がけ、原型の制作を担った動物のカプセルトイは全国的な大ヒットを記録。各地の美術館で展覧会を開催しているほか、『情熱大陸』(毎日放送)出演などメディア出演多数 公式サイト:はしもとみおホームページ SNS:YouTube / X(旧Twitter) / Instagram |
※本記事は連載記事です。続編が公開され次第リンクが更新されます。
2記事目:8月中に公開予定
3記事目:8月中に公開予定
4記事目:9月上旬に公開予定
5記事目:9月上旬に公開予定
6記事目:9月上旬に公開予定
「動物が大好き」が全部のはじまり


──まず伺いたいのは、なぜ動物たちの木彫りを作り始めたのか。その「ルーツ」についてお聞きしたいです。
私はとにかく動物が大好きで、生きているということ、いのちが大好きだということに幼少期から気が付いていたんですね。動物を撫でているだけで幸せ。動物にかかわる本だったらいくらでも読めてしまう。
何をして日々の糧を稼いでいくのかと考えたときも、自然と「動物にかかわること」が選択肢にあったんです。だから最初は獣医さんを目指そうとしていたんですね。

一緒にインタビューを受けてくれました
──そうだったんですね。でも、どうして獣医さんなのでしょうか?
実家で一緒に暮らしていた愛犬の死が影響しています。あんなにも愛おしくて大切ないのちが、この世界からいなくなってしまった。幼心ながら、その現実に抵抗したい、動物のいのちを助けたいと思ったんですね。「だったら獣医さんだ」と。
加えて、その夢を両親にも勧められたことも大きかったですね。親からすれば子供には安定した仕事に就いてほしいもの。その点で獣医は、動物にかかわる仕事のなかでも安定して見えますから。

「消えたいのちをこの世界に残す」
──しかし、現在は彫刻家として活躍されています。獣医という夢からどのような転換があったのでしょうか?
高校生のころのことです。阪神・淡路大震災が起きました。日本中にとてつもない衝撃が走ったその日の翌日、外に出ると、普段聞こえていたはずの鳥の声が全く聞こえなかったんですね。
震災によりいのちを失った子、住処を失いどこかへ去った子。住んでいた町から大好きな動物たちの姿が消えてしまったことが、本当にショックだったんです。

すさまじい喪失感。果てしない現実を前に、私にできることって何だろう、したいことは何だろう。そのことを改めて問い直すと、胸の内に浮かんできたのは「動物たちのいのちの形を、未来に残したい」という思いでした。
これがきっかけとなって、美術の世界に飛び込んでいくことになります。

──そうして、動物の木彫りを作り上げる「いま」につながっていった。
はい。一番最初から抱いていた「いのちが好き」という思いに重なった「形に残したい」という思い。これは今でも全く変わっていません。
大好きな動物たちが、ここにこうして存在していること。風のように走り、忙しくご飯を食べ、鼻息を立てて眠る。そのすべてを愛おしく思いますし、そのすべてをあるがままに残したい。今でもずっとその思いで彫り続けています。
私は生きることが大好き。朝目覚める瞬間も、散歩をして、珈琲を飲む時間も、そのすべてが幸せなんですよ。

「好き」って、理由を説明できるものなの?
──だから動物たちの顔はこんなにもやさしくて、動き出しそうなんですね……はしもとさんは、どうしてそんなに動物のことが好きなのでしょうか?

うーん……。理由は、ないですね。好きだから好きなんです。私は生まれた瞬間から、もしかすると生まれる前から動物のことが好きだったんでしょう。そして、今の人生が終わり、次の人生を歩むときも、きっと動物のことが大好きだと思います。
でも、それがどうしてかというと、別に理由はないんですよね。風が風であるように、木は木であるように。好きであることに必ずしも理由が必要であるとは思いません。

言葉で説明できることはどれも後付けです。知識を得て、言葉を学び、設定を持たせただけ。でも本当の本当に好きなことって、どうにも説明が付かないと思うんです。なぜかずっと考えてしまう。なぜかつい手に取ってしまう。それは好きだからですよね。そこにそれ以外の理由なんてないだろうし、それは本能的なもの。
きっと就活では「どうしてその仕事をしたいのか」の言語化を求められることも多いでしょう。でも、すべてを言葉にする必要はないとも思います。どうしてもその仕事がしたいから、どうしてもその世界にいたいから、そう魂が叫んでいる──それなら、それでいいと思う。だって、それ以上の言葉ってないんですから。

ただ、これはとことん深掘りをしたうえで言い切れるようになることが大切です。理由が見つからないからない、ではなく、最初の記憶まで遡って分析をして「ああ、これは理屈ではないんだ」と言えるものを見つけること。それが「本当の好き」ですね。
本音に従えば軸が見えてくる
──就活では「やりたいことがわからない」と悩む学生も多いです。いわば「好き」が見つからない人は、どうすればいいのでしょうか?
まずは本音に従うということです。人は教育を受けていくうちに本音を抑え込む術を自然に身に付けてしまうんですね。それが良い悪いという話ではなく、そうなってしまうということだけの話。でも、本音がない人なんていません。単純に自分を見失っている状態なんだと思います。
彫刻でいうと、まだまだいらない部分がたくさんついている未完成な状態。内側には本当の姿があるのに、それが見えていない。それなら、余計な部分をそぎ落として彫りだしてあげないと。

ゲームが大好きという人は、ゲームをするのが好きなのか、作るのが好きなのか、やっているところを見るのが好きなのか。どんどん本音を彫りだしていけば必ず本当の自分が見えてきます。
「Why」は一生。「How to」は一瞬
──その彫りだし方で苦戦する人も多そうです。
そうですね、きっと大変な作業でしょう。でも、誰かにやってもらうわけにはいきません。本当の自分は、自分の中にしかいないのですから。彫刻もそうです。頭の中に描き出した姿は自分の手で彫りだすしかない。孤独でないとできない作業──自分を探求する作業も、そうではないでしょうか。

だからこそ、自分の意志でいろいろなものを見て、味わって、体験することが大切ですね。親に連れられてとか、友人の誘いで、とか誰かに与えられたものではなく、自分で興味をもち、自分で行動を起こすこと。
ぜひ、一人でいろいろな場所へ行ってみてください。自らいろいろな人と話してみてください。そうして何をするのが好きなんだろう、とか、どういう場所にいるのが心地良いんだろう、とか、本当の自分の心の動き方を知っておく。
そうやって孤独と仲良しになっていくと、本当の自分の輪郭がより具体的に見えてきます。

──見つけ出した「本当にやりたいこと」。でも、それが向いているか、仕事としてやっていけるかわからない。そんな不安を持つ人もいるかもしれません。
「できるようになる」ことは、20代はほとんど考える必要はないと思います。絶対にすぐできるようになるので。私だって幼少期から美術をしていたわけではありませんが、何のハンデもありません。
それ以前の、何をやりたいのか、なぜそうしたいのかという「Why」をとにかく突き詰めておくこと。没頭したいことを探求するのには確かに時間がかかるので、今こそしっかり見極めておく。なんだったらずうっと考え続けるテーマでもありますから。
反面、「How to」にかかわることなんて数カ月で慣れるから大丈夫。見つけ出した本当の自分が向いている方向へ、自信をもって進んでいきましょう。

取材・執筆・撮影:小林駿平
執筆・編集 PORTキャリア編集部
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