
はじめに:その「ガクチカ」の悩み、実はズレてるかも?
「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)として語れるような、立派な実績が何ひとつありません」
よく聞く悩みです。新1年生からは「今のうちに何をすれば『ガクチカ』になりますか?」と先回りの質問を受け、新3年生からは「サークルもバイトも普通すぎて、これはガクチカになりますか?」と、まるで検品を受けるかのような不安な顔で尋ねられます。
まずお伝えしたいのは、ガクチカは「作る」ものでも「承認をもらう」ものでも、まして他人と競うための「実績コンテスト」でもない、ということです。
もしあなたが「自分には何もない」と自信を失いそうになっているのなら、それはあなたに経験がないからではなく、「企業が何を見ているか」という視点への解像度が低いだけです。
ここで簡単に自己紹介をすると、私はファーストキャリアではユーザーの行動を分析するUXコンサルタントに。そこから人事、キャリアコンサルタントへとキャリアを広げ、これまで多くの「個人のキャリア」と「企業の採用」の両面を見てきました。
そのなかで、多くの学生が陥っている「ガクチカがない」という呪いについて、既存の就活サイトにあるような「キラキラした成功体験」の呪いを解きつつ、企業が本当に見ているあなたの正体についてお話しします。
本コラムのコンセプト
生成AIによる一般的な情報がすぐに手に入る時代。就活生や求職者にいま求められているのは、経験や体験に基づく血の通ったアドバイスではないか。そうした読者のニーズに応えるために、編集部がテーマを選定し、参画するキャリアコンサルタントらに寄稿いただくコラム企画を始めました。自身の経験や実アドバイスをベースに、綺麗事を一切排除した本音の就活対策をお届けします。
そもそも、なぜ企業は「ガクチカ」を聞くのか?
なぜ、どの企業も口を揃えてガクチカを聞くのでしょうか。それは、あなたのエピソードのなかから、あなたの「変えられないもの」を見抜くためです。
企業が選考で見ている「変えられるもの」と「変えられないもの」
では、具体的に変えられるもの、変えられないものとは何を指すのでしょうか。
変えられるもの・変えられないもの
- 変えられるもの: 専門知識、ビジネススキル、手法、ツールの使い方
- 変えられないもの: 過去の経験から得た知恵、生来の価値観、物事への向き合い方
プログラミングができる、英語が流暢に話せる、といった「知識やスキル」は極論、入社後の研修や実務で後付け(インストール)できます。
しかし、あなたが何を美しいと思い、何に耐えられないと感じるのかという「価値観」や、困難に直面した時の「心の動き方」は、一朝一夕には変えられません。
企業はあなたの「OS」を見極めたい
企業が本当に知りたいのは、実績そのものではなく、その実績を生み出した「あなたという人間を動かしている、変えられない「基本オペレーションシステム(OS)」です。OSとは、以下のようなものです。
企業が見極める「あなたを動かすもの(=OS)」
- 価値観(Will): どんな時に心が動き、何にストレスを感じるのか。
- 思考のプロセス(Logic): 問題に直面したとき、どう解釈し、どう動くのか。
- 再現性: その「動き方」は、入社後の仕事でも発揮されるのか。
多くの学生が、ガクチカを「過去の栄光を競うコンテスト」だと勘違いしています。しかし、採用側からすれば、あなたが全国大会で優勝したかどうかは、実はそれほど重要ではありません。
「すごい実績がない」と悩む学生は、この「変えられるもの(スキルや結果)」の多寡で勝負しようとしています。しかし、企業が本当に欲しているのは、アップデート不可能な、あなたという人間の「根っこ」の部分なのです。
実績は、あくまでそのOSが動いた「結果」に過ぎません。企業は結果そのものを買いたいのではなく、その結果を生み出した「あなたの頭と心の使い方」を確認したいのです。
なぜ、あなたは「ガクチカがない」と感じてしまうのかー「出力の大きさ」という罠
「ガクチカがない」と悩む人の多くは、自分の経験が「他人の物差し」で測られていることに気づいていません。
①「出力(アウトプット)の大きさ」ばかりを見ている
「リーダーとして100人をまとめた」「全国大会で優勝した」……。こうした目に見える「出力」の大きさだけが評価対象だと思い込むと、自分の日常は色褪せて見えます。しかし、人事が求めているのは「出力」よりも「入力(インプット)から出力に至る一連のプロセス」です。
②「当たり前」の解像度が低い
自分にとっては当たり前にやっていること。たとえば「毎日SNSをチェックして、気になる情報をストックしている」「ゲームで勝つために攻略サイトを読み込んでいる」といった行動。
実は、ここにはあなたのこだわりや探究心、発信意欲、熱量の源泉が隠れています。自分の行動を「当たり前」で片付けてしまうと、言語化の種は見つかりません。
「ガクチカ」を見つけるためのUX的アプローチ
私はこれまで、ユーザー(生活者)の心の動きをつぶさに観察する「UXコンサルタント」として、その行動の裏にある「背景」を深掘りしてきました。これと同じことを、自分自身に対してもおこなってみてください。
負の感情にこそ、あなたの「正義」が眠っている
「頑張ったこと」を探そうとすると、多くの人が「成功した話」「褒められた話」を絞り出そうとします。
しかし、ポジティブなエピソードは、往々にして「社会的に正しい自分」を演じてしまいがちで、個人の解像度が低くなりがちです。私がおすすめしたいのは、「嫌いなこと」「違和感を感じたこと」「許せなかったこと」を掘り起こす作業です。
負の感情(違和感・怒り)を深掘りする
負の感情にはあなたの「正義」が眠っています。
「バイト先の非効率なルールに、猛烈にイライラした」
「チームの中で、特定の人だけが損をしている状況が許せなかった」
その嫌悪感の裏側には、必ずあなたの「譲れない価値観」があります。「非効率が嫌い」なら「合理性を重んじる」という強みになり、「不公平が許せない」なら「調和と公平性を尊ぶ」という価値観になります。
ビジネスにおいても、ユーザーの「不平・不満」が最高の改善のヒントになるのと同様に、あなたの「不満」は最高の自己分析の材料なのです。成功体験よりも、こうした負の感情を起点にしたエピソードの方が、よほど「あなたという人間」の輪郭を鮮明に映し出します。
頑張ったことではなく、「偏愛」を探る
負の感情に目を向けるだけでなく、「つい時間を忘れてやってしまうこと(偏愛)」を探してみてください。
あなたの「偏愛」は?
- 例①推しの魅力を伝えるために、週に1回、1万字のブログを書いた
- 例②カフェの導線や接客を観察して勝手に改善案を考えていた
- 例③ゲームの攻略情報を毎回比較して自分なりの勝ち筋を言語化していた
上記は立派なガクチカです。そこには「現状を改善したいという欲求」や「何かを形にする情熱」という、仕事に直結するあなたのOSが色濃く出ているからです。
過去に自信がなくても大丈夫。今日からガクチカの材料を増やす方法ー自分を実験台にしたプロジェクト
もし、どうしても過去に振り返るものがないと思うのなら、今日から「自分を実験台にしたプロジェクト」を始めてみてください。
自分を実験台にしたプロジェクトの例
- 1ヶ月間、毎日欠かさず散歩をして、その時気づいた街の変化をメモする
- 就活で感じた生活のなかの違和感を、毎日1つ取り上げ文章にする
- 自炊の工程を極限まで効率化し、15分で3品作るルーティンを確立する
上記のように、身近なことでかまいません。
大事なのは、規模ではなく「自分で問いを立てて、行動した」という事実とそのプロセスです。「ガクチカがないから、今これに挑戦しています」と面接で語る学生は、過去の貯金だけで勝負している学生よりも、はるかに「現在進行形の伸びしろ」を感じさせます。
ガクチカを考える際にやってはいけないことー「自分を企業の型に合わせにいく」罠
絶対にやってはいけないこと。それは、「自分を企業の型に合わせにいくこと」です。
「御社は活発な人材を求めているから、おとなしい自分だけどリーダー経験を盛って話そう」……。これは、UXデザインでいえば「ユーザーが欲しがっていない機能を、嘘の広告で売る」ようなものです。仮に内定が出たとしても、入社後に「本来の自分」とのギャップに苦しむのはあなた自身です。
それに、人事は、何千人もの学生を見てきたプロです。借り物の言葉や、実績の『盛り』は、対話の解像度が上がった瞬間にすぐに見抜けます。嘘で勝ち取った内定は、あなたにとっても企業にとっても、不幸なミスマッチの始まりでしかありません。
「凄そうに見せる」のではなく、「自分を正確に伝える」ことに全力を注ぎましょう。
ガクチカにおいてやるべき「貢献の提案」ー「自己アピール」の罠
ここで一つ、重要なマインドセットの転換をお伝えします。会社とはひとつの「船」であり、社会という荒波を乗り越えるための組織です。採用担当者が知りたいのは、あなたの凄さではなく、「この人は、私たちの船のどの役割を担い、どう貢献してくれるのか?」という視点です。
ガクチカを書く際、多くの学生が「いかに自分が優れているか」を叫ぶ「自己アピール」に終始してしまいます。
しかし、「私はこれができます」だけで終わってしまうと、相手にとっての価値が伝わりにくくなります。厳しい言い方ですが、会社という船に乗る以上、あなたの能力がどう役立つかを翻訳して伝える義務は、あなた側にあります。
独りよがりの凄さは、組織においては時にノイズになります。自分の持ち味を客観的に捉え、それを組織というパズルのどこにハメるのか。その謙虚なメタ認知こそが、プロの視点から見て最も信頼できる資質です。
「良いガクチカ」の具体例ー派手さはいらない。解像度を上げることが大事
私がこれまで「この人は面白いな」と感じたガクチカは、決まって「身近なこと」を独自の視点で語ったものでした。
良い例文の例:コンビニの深夜バイトの改善
私はコンビニの深夜バイトで、廃棄弁当を減らすために手書きのPOPを書き、実績としては廃棄を〇%減らしました。
私はこの「どうすれば人の心理を動かして、本来捨てられるはずのものを価値に変えられるか」を考える過程で、自分が「仕組みの欠陥を埋めること」に強い喜びを感じると気づきました。
この「仕組みを補完する視点」を、貴社のオペレーション改善に活かしたいです。
このエピソードには、全国1位のような派手な実績はありません。しかし、その人の「視点(OS)」と「動機」が明確で、企業での再現性がイメージできます。これこそが、企業が求めている「本人にしか語れない具体性」です。
最後に:就活は「正解」を当てるゲームではない
よく「会社に合う人間にならなきゃ」と自分を殺して適応しようとする人がいますが、それは少しもったいない考え方です。
会社とは社会の縮図であり、多様な人間がいて初めて機能します。全員が同じ性質を持つ集団は有り得ないし、まったくの同質さを目指すような組織に未来はない、と言ってもいいかもしれません。
大事なのは、「私はこういう人間で、この特性を使って、この会社(ひいては社会)にこのような形で貢献できます」と、ポジティブに提案することです。
「すごいガクチカ」がないと立ち止まっている方へ。何かを成し遂げた証拠を探すことに固執する必要はありません。派手な実績という「外装」を剥ぎ取った後に残る、不器用で、でも確かなあなたの「OS」。それが、結果としてあなたにしか語れない、最強のガクチカになります。
自分の人生を、就活サイトにあるような借り物の言葉や、AIに履歴書を食わせて整えた無難な言葉だけで語ろうとしないでください。あなたが日々感じている小さな違和感、どうしてもこだわってしまう癖。そこにこそ、あなたにしか語れない最高のガクチカが眠っています。
だからこそ、あなたは「ただ一つの固有の存在」として、そのままでそこにいて当然です。就活は「企業が用意した正解」に自分を当てはめるゲームではないのです。大事なのは、「私はこういう人間で、この特性を使って、この会社(ひいては社会)にこのような形で貢献できます」と、ポジティブに提案する意識を持ちましょう。
執筆・編集 PORTキャリア編集部
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