新卒ベンチャーという選択を「目的」にしないための解像度の上げ方ー「成長」という言葉を疑え

この記事の執筆者 新卒でベンチャーに就職したキャリアコンサルタントが書き下ろしました
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高尾 有沙
国家資格キャリアコンサルタント
Arisa Takao〇第二新卒を中心にキャリア相談を手掛け、異業種への転職をサポートする。管理職向けの1on1やコンサルティング業界を目指す新卒学生の支援など年齢や経歴にとらわれない支援が持ち味。コンサルタント、マーケティング、人事、広報、営業を経て、現在はベンチャー企業のコミュニティマネージャーとしても活動。個人でもキャリア相談やコミュニティ運営、メディアへの寄稿をおこなっている。

はじめに:大手内定を捨ててベンチャーを選んだ私の「確信」

キャリアコンサルタントの高尾、通称ありぱんと申します。今回は「新卒でベンチャーに行くこと」について、筆を執りました。

私が新卒でファーストキャリアを選ぶ際、ありがたいことに大手企業や外資系企業からも複数内定をいただきました。周囲からは「なぜわざわざリスクを取るのか」と驚かれましたが、最終的に社員数十名規模のベンチャーへの入社を決めました。

今、キャリアコンサルタントとして当時を振り返っても、その選択を後悔したことは一度もありません

ただし、私がベンチャーを選んだのは「なんとなく成長できそうだから」といった曖昧な動機ではありませんでした。当時は自分なりに、「自分は今後どんな風に生きていきたいか」から考えた、結果的には戦略的な選択だったと思います。

今回は、最近の就活で飛び交う「成長」という言葉の解像度をぐっと高めつつ、「新卒採用でベンチャーに行くこと」について考えていきたいと思います

本コラムのコンセプト

生成AIによる一般的な情報がすぐに手に入る時代。就活生や求職者にいま求められているのは、経験や体験に基づく血の通ったアドバイスではないか。そうした読者のニーズに応えるために、編集部がテーマを選定し、参画するキャリアコンサルタントらに寄稿いただくコラム企画を始めました。自身の経験や実アドバイスをベースに、綺麗事を一切排除した本音の就活対策をお届けします。

新卒でベンチャー企業に就職する「圧倒的なメリット」

ベンチャーの魅力は、キラキラした「裁量権」という言葉ではありません。もっと泥臭く、実利的なものです。

①自分のできることを増やす機会が「物理的に」多い

大手企業では、職種や配属、担当業務が細かく分断されています。しかし、ベンチャーでは組織の役割が固まりきっていないため、目の前の課題に応じて仕事の幅が勝手に広がっていきます。

仕事の幅が広がる例

  • 営業として入ったけれど、顧客の声を拾って商品改善にまで口を出す
  • 人事として入ったけれど、採用広報やオンボーディング、コミュニティ運営まで一気通貫で担当する

こうした「越境(ボーダークロス)」が日常的に起きるのがベンチャーの面白さです。

「一つの職種を深めたい」というスペシャリスト志向よりも、「変化に合わせて役割を広げられる、生存能力の高い人になりたい」と考える人にとって、これ以上の修行場はありません

②自分の人生に「オーナーシップ」を持ちやすい

ベンチャーで働くと、「会社が何を用意してくれるか」よりも、「自分はこの環境をどう使うか」を問われる場面が激増します。

研修制度が整っていないことも、上司が忙しすぎて放置されることもあるでしょう。

しかし、その不完全な環境下で自分で問いを立て、学び、物事を進めていく経験は、最強の武器になります。

自分の人生のハンドルを会社に預けるのではなく、自分で握り続けたい人にとって、ベンチャーは非常に相性の良い環境です

直視すべき「新卒ベンチャー」のグロテスクなデメリット

ただ、そんなベンチャー就職も良いことばかりではありません。ベンチャー就職の「不都合な真実」は存在します。

①安定した育成環境があるとは限らない

一般的に、新卒の数年間は、仕事の土台(報連相、議事録、資料作成、論点整理など)を固める大切な時期です。

大手企業にはこれを体系的に学ぶ「型」がありますが、ベンチャーにはそれがあるとは限りません。「先輩の背中を見て盗む」「失敗して血を流しながら覚える」ことが求められます

この「型のない苦労」を、将来の市場価値につながる経験と捉えられるか、単なる「無駄な消耗」と感じてしまうか。 ここが大きな分かれ目です。

②いきなり飛び込むには自分・相手の情報が不足している

ベンチャーの環境にいきなり新卒で飛び込むのは、正直に言ってリスキーです。外から見るキラキラした広報資料と、中にある泥臭いカオス。このギャップに耐えられるかどうかを「ぶっつけ本番」で試すのは、やはりリスクが大きすぎます。

「自分がどんな環境であればパフォーマンスを出せるのか?」ということについても、学生時代にはよくわかっていないことが多いものです(そしてその無知が、ベンチャー企業における早期退職の引き金になっているとも感じます)。

また、「ベンチャー」と一口に言っても、育成に熱心に取り組んでいる会社もあれば、人手が足りないだけの「名ばかり裁量」の会社もあります。「なんとなく自立したいから」「ベンチャーっぽい」という雰囲気だけで選ぶのは危険な行為です。

だからこそ、インターンなどを通じて「中の人」としての自分を試しておくことを強くおすすめします。そのカオスやスピード感が「心地良い」のか「疲弊する」のか。それは、頭で考えても絶対に答えは出ません

「成長」を解像度高く定義できていますか?

キャリア相談で「ベンチャーで成長したい」と言う学生に、私は必ずこう聞き返します。 「その成長の先に、どんな在り方を求めていますか?」。

在り方とは、具体的に以下です。

在り方とは?

  • どんな経験をしたいのか
    例:ゼロからサービスを立ち上げる泥臭い経験
  • どんな人になりたいのか
    例:誰の指示も仰がず、自分の判断で事業を動かせる人
  • どんな生き方をしたいか
    例:特定の会社に依存せず、自分の腕一本で生きていける状態


この視点が必要です。0から1を作る突破力が欲しいならベンチャー、というのは一つの回答になるかもしれません。

ですが、巨大な組織を動かすロジックを学びたいなら大手が正解かもしれません。

もし「20代のうちに人生のオーナーシップ(主導権)を握りたい」と願うなら、ベンチャーは最高の環境になりえます。しかし、単に「市場価値を上げたい」なら、大手企業で体系的なスキルを学ぶ方が近道であることも多いのです。

実際、ほとんどの学生が「成長」という言葉を使う一方で、それが何かを理解していないことが多いです。

「成長」という言葉は非常に便利で、中身が空っぽでもなんとなく正解に見えてしまいますが、その言葉に逃げてはいけません。自分の「理想の在り方」を具体化し、その場所に近づくための「手段」としてベンチャーが最適なのか。それを考え抜く必要があります

「起業したい=ベンチャー」は必ずしも正解ではない

よくある誤解が、「将来起業したいから、まずはベンチャーで修行する」という発想です。これ、実は必ずしも正解とは限りません。

私の周りの成功している起業家たちを見渡すと、「大企業出身者」が意外なほど多いことに気づきます。

なぜか。彼らは大企業という環境で、ベンチャーでは到底得られない「強固な人脈」「業界の深い構造理解」「莫大な予算を動かした実績」というアセット(資産)を築き、それを元手にして起業しているからです。

得られるアセット【大手vsベンチャー】

  • 大手で得られるアセット
    社会を動かす巨大なネットワーク、潤沢な資金背景、組織を動かすためのロジック
  • ベンチャーで得られるアセット
    0から1を作る突破力、多職種を兼任する汎用性、不確実性への耐性

「将来なりたい自分」には、どちらの資産が必要でしょうか?

「とにかく早く腕試しをしたい」ならベンチャーもありですが、「巨大な産業をリプレイスするような起業をしたい」なら、一度大手の門を叩き、その「船」の動かし方を学ぶ方が、結果として目的地に早く着く場合もあるのです

ベンチャーに向いている人・向いていない人の境界線

ここで、ベンチャーという環境への適性を整理してみました。

向いている人:働くことを「人生の喜び」にできる人

仕事と自分を切り離すのではなく、「もがき、試行錯誤し、昨日できなかったことができるようになるプロセス」そのものに面白さを感じられる人には、ベンチャーという環境をおすすめできます

ベンチャーに向いている人の特徴

  • 自分の人生にオーナーシップを持ちたい人
  • できることの「幅」を、自分の限界を超えて広げていきたい人
  • 働くことを「人生の喜び」や「自己表現」として捉えられる人

「変化のある社会で、いっぱいもがいて、その先に見える景色を誰よりも早く見たい」というハングリーな人にとって、ベンチャーは絶好のチャンスです。

向いていない人:「正解」や「手順」を求める人

「何をすれば評価されるか明確にしてほしい」、「失敗しないやり方を教えてほしい」という人には、ベンチャーの負荷は大きすぎます。

ベンチャーに向いていない人の特徴

  • 「正解」や「マニュアル」を求めてしまう人
  • 仕事と私生活を完全に分離し、労働の対価としてのみ報酬を考える人

これは能力の問題ではなく、環境との相性です。整った制度の中で専門性を磨く方が、結果的に大きく伸びる才能も確実に存在します

最後に:人生の舵を自分で握るということ

就活は「正解」を当てるゲームではありません。 大手企業という大きくて立派な船からしか見られない景色もあれば、ベンチャーという手漕ぎボートで荒波を越えた先にしか見えない素晴らしい景色もあります。

私自身、新卒でベンチャーを選び、いっぱいもがいた結果、時間をかけて「どこへ行っても、何があっても生きていける」という確信を手に入れることができました。

大事なのは、「みんながベンチャーと言っているから」「なんとなく成長できそうだから」ではなく、「自分がなりたい姿に必要なアセットは何か」を冷徹に見極めること。

そして、もしあなたが「自分の力で社会の変化を楽しみ、もがいた先の素晴らしい景色を掴み取りたい」と願うなら、ベンチャーという選択は、あなたの人生にとってかけがえのない財産になるはずです

会社にキャリアを用意してもらうのではなく、この環境を活用して、自分は何者になれるかを考える。そんなポジティブな野心を持つあなたにとって、ベンチャーという選択肢は、人生を劇的に面白くするスパイスになるはずです。

働くことは、苦しいことも多いけれど、それ以上に「喜び」に満ちたものです。 その第一歩として、まずは「自分というOS」をどんなフィールドで試してみたいか、本音で向き合ってみてください。

読者の皆さんが「自分の意志で舵を握る」、そのための手段の一つとしてベンチャー企業を検討するきっかけになれば幸いです。

執筆・編集 PORTキャリア編集部

明日から使える就活ノウハウ情報をテーマに、履歴書・志望動機といった書類の作成方法や面接やグループワークなどの選考対策の方法など、多様な選択肢や答えを提示することで、一人ひとりの就活生の意思決定に役立つことを目指しています。 国家資格を保有するキャリアコンサルタントや、現役キャリアアドバイザーら専門家監修のもと、最高品質の記事を配信しています。

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記事の編集責任者 熊野 公俊 Kumano Masatoshi

高校卒業後、航空自衛隊に入隊。4年間の在籍後、22歳で都内の大学に入学し、心理学・教育学を学ぶ。卒業後は人材サービスを展開するパソナで、人材派遣営業やグローバル人材の採用支援、女性活躍推進事業に従事。NPO(非営利団体)での勤務を経て、「PORTキャリア」を運営するポートに入社。キャリアアドバイザーとして年間400人と面談し、延べ2500人にも及ぶ学生を支援。2020年、厚生労働大臣認定のキャリアコンサルタント養成講習であるGCDF-Japan(キャリアカウンセラートレーニングプログラム)を修了

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