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田園風景が流れ行く車窓。列車を乗り継ぎ、草木に囲まれた小道を抜けていくと、そこには木彫り彫刻家のはしもとみおさんのアトリエがありました。
いま、ここにある命を形にして未来に残すはしもとさんの元には、世界中から作品制作の依頼が届いています。
材料となるクスノキの香りが満ちたアトリエで、柔らかい光に包まれながら今日も動物の木彫り彫刻を彫る。どうしてそこまで作り続けられるのか、何をきっかけにその仕事を選んだのか。
今回、就活やキャリアに関するお話をたっぷりお聞きしました。
| ▼はしもとみお プロフィール 1980年、兵庫県生まれ。三重県いなべ市在住の木彫り彫刻家。 いのちや動物をテーマに、いまそこで生きているありのままの姿を原寸大の木彫りで残す作品を作る。木彫り彫刻のほか、ミニチュア彫刻やイラスト、絵本制作なども幅広く手がけ、原型の制作を担った動物のカプセルトイは全国的な大ヒットを記録。各地の美術館で展覧会を開催しているほか、『情熱大陸』(毎日放送)出演をはじめ、メディアへの登場多数 公式サイト:はしもとみおホームページ SNS:YouTube / X(旧Twitter) / Instagram |
※本記事は連載記事です。過去の記事は下記のリンクから読めます
1記事目:「言葉にならない『好き』に従う」。彫刻家・はしもとみおが就活生に伝えたい「自分軸の彫り方」
2記事目:「周囲の反対は、未来からの挑戦状」獣医志望から彫刻家へ。はしもとみおが語る「やりたい」の貫き方
3記事目:どうすれば「はしもとみお」になれますか? 理想をかなえる環境・仕事の選び方
4記事目:ぴったり合う鉢を選ぶように──彫刻家・はしもとみおが考える「働く場所」の見つけ方
5記事目:本記事
はしもとみおさんの「朝練」

──アトリエには木彫りだけでなく、絵画もたくさん飾られていますね。とくに月くん(パートナーの柴犬)の絵が多いように見えます。
残したいんですよね。一緒に暮らしていると微細な変化には気が付きにくいんですが、やっぱり昨日の月くんと今日の月くんはどこか違うんです。刻一刻と変化していく姿。一瞬たりとも見逃したくなくて、絵や彫刻に残し続けています。
毎朝絵を描くのが習慣なんですが、そこで月くんを描くことがすごく多いですね。
──毎朝はすごいですね。
ほとんど部活の朝練ですね。でも、この朝練は馬鹿にできなくて、「複利」みたいにやればやるだけ未来でどんどん効いてくるんです。上達したいもの、到達したいものを一つ決めて、それに関する練習をとにかく毎朝やる。朝が大切ですね。夜はほら、熱中してつい夜更かししちゃうから(笑)。

時間は短くても良いからとにかく毎朝続ける。すると、じゃあそれが毎朝の30分だけだったとしても、20年続ければ3,650時間。日数でいえばおよそ150日間に相当します。150日飲まず食わず眠らず、毎日練習し続けていたらどれほど上達するでしょうか?
美術の人ならデッサン、人と接する仕事なら発声練習、文章を書く仕事ならジャーナリングなんかもいいですね。練習だから何でもいいんです。とにかく、目標に関連する練習を重ねること。そうして朝練を重ねれば重ねるだけ自分の自信にもつながってくるし、それ自体が瞑想のようにもなってくる。すごくおすすめですよ。
今朝も一枚描いたところですが、良かったらどんなふうに描いているかお見せしましょうか?
──ぜひお願いします。
じゃあ、いつも通り月くんを描きますね。あはは、見て、かわいい。

病院のような美術館をつくりたい
──「描く」という点につなげてお聞きしますが、5年後・10年後など、描かれている今後のビジョンなどがあればお聞きしたいです。
今の生活を続けていくこと、それと、「理想の美術館を建てる」ですね。
仕事で疲れていたり、人間関係で困っていたりする人の心をいやせるような、ある種ホスピタル的な美術館みたいな場所を作りたいんです。心の病院とまではいかないけど、でもそこにきたら落ち着ける、心が安らげる。そんな場所があったら、とっても嬉しいじゃないですか。

──昔から構想していたことなのでしょうか?
若いときはもっと漠然としていたと思いますが、でも「場」をつくりたいという思いはどこかにあったんでしょうね。
40歳を過ぎたころだったかな。もっと視点が「俯瞰的」になったんです。空から、もっと上の宇宙からこの惑星地球を見下ろしたとき、一番美しい場所を作りたい、って。1000年後に宇宙人が地球旅行に来たときに「なんてワンダフルな場所なんだ!」って絶叫するくらいの(笑)。
そう思うようになったのはやっぱり彫刻をずうっと作り続けてきたからだと思います。彫刻は未来に残されるもの。だから、未来でもうんとかわいがってもらいたい。宇宙人にだって発信したい。そのための場として、美術館をつくりたいんです。

1000年後に何を残したいかでキャリアを考える
就活もまた将来のことを考える、考えさせられるタイミングだと思うんですが、5年後、10年後単位ではなかなか思いつかないときもきっとあるでしょう。そんなときは、私みたいに1000年単位で考えてみたらどうでしょうか。
誰もかれもがそのときには死んでいるわけですから、そのときどうしていたいか、ではなく、遠い未来の先まで残したいことは何なのかを考えてみる。いわば遺産ですね。すると、ではそのためには何をすればいいのか、という視点で自然と道のりが浮かび上がってくるでしょう。
自分なりの味を残したいなら、どこかのお店でまずは自分の味を探求する必要があるからリスペクトできるシェフの下で働く。自分の哲学や思想をこの世界の片隅に残していきたいなら、人に教え伝えられる教師を目指す、とかね。

面接でもそういう話をしても良いと思うんですよね。たとえば「入社してから10年後にどうなっていたいですか」と聞かれて、どうにも答えに迷ったら、その気持ちを正直に話してみる。わかりません、でも、1000年後、僕は私は、この仕事を通じてこういったことを残したいと思っています──。こんなふうに強い思いを語れる人のことを、会社だってきっと魅力的に感じると思いますよ。
これからの世界に残る仕事とは

──未来に残したいものから考える、というお話がありましたが、昨今はAIの台頭もあり、これからどんな仕事が残っていくのかと悩む人も多いです。はしもとさんはどうお考えですか?
何が残り、何が消えていくのかは誰にもわからないので断言はできません。ただ、AIって本当にすごいですよね。驚くほど優秀で、人にできることの方が少なくなっていく可能性は大いにあると思います。だから、何も考えずに済むような、ただ作業のように取り組んでいれば良いという仕事は、もしかしたら取って代わられてしまうかもしれませんね。AIほど単純作業が得意なものってないですから。
でも、たとえばタクシーも無人運転がこれからどんどん普及していくでしょうけれど、ベテランドライバーが「こっち回ったらメーターが変わらない道があるので使いますね」って親切に言ってくれたり、観光名所とか自分の足で調べた地域の情報を話しながら運転してくれたら、すごく嬉しいじゃないですか。そういった人の汗のようなものを感じられる仕事は、人の心に響く。失われることはないと思いますね。

テレビの仕事って2、30年前だと憧れの職業でした。でも、いまはYouTubeも広く普及して、新しい媒体でのスターも生まれていますし、番組を見ること自体もNetflixの方が多い人もいるでしょう。でもね、じゃあ長年テレビで活躍していた人たちが舞台から追い出されたかというと、全然そんなことはないじゃないですか。YouTubeもやるし、新しい配信サービスでも番組をもっているし。
リアルタイムでAIが発展しているのでついつい近視眼的になってしまいがちですが、そもそも技術や需要の変化で社会が大きく変容してきたのは、なにも最近のことだけではないんです。いままでもずっとそうでした。
そのなかでも仕事をし続けてきた人たちがいて、そういった人たちは信念と誇りをもって仕事に熱中してきた。社会がどう変わろうと、風向きがどう変わろうと、追い風に変えて前に進んでこられた人たちが確かにいる。そこに、AIによって変革が進む社会でもなくならない仕事のヒントがあると思います。
「1」を生み出せるか

──「残る仕事」からさらに具体的にお聞きしたいのですが、年間で倒産する企業数は何千件にも上りますが、その点で「残る会社」とはどんな会社だと思いますか。
0を1にできる会社は、環境がどう変わろうとビジネスを生み出す力があるから強いでしょうね。誤解を恐れずに言うと、1を100にするのって実はそう難しいことではないです。多くの会社はそうして売り上げを上げているわけでもありますし。ただ、それはまず核となる「1」がないとなし得ないわけで、だからこそ難しいんです。
私もよくガチャガチャや模型販売などで原型を作ることがあるんですが、この原型一つさえあれば何千何万と商品を複製できます。多くの方に手に取ってもらえばその分だけ利益も上がります。でも、それは原型があって初めてできることですよね。
これは一つの例えではありますが、生み出した独自の「1」があるというのはとても強いんです。就活ではこの「ゼロイチ」があるかを見てみるのも、面白いと思いますね。

──確かに、特許を持っている企業などはそれだけで強いですよね。
そうなんです。これは何も企業に限った話だけではなくて、「人」にも同じ話として持ち出せます。自分自身がゼロイチで生み出せたら、ものすごい需要のある人になれるじゃないですか。その人を採用したらオリジナルの価値を手に入れられるから、企業からすればものすごく魅力的な人物です。何だったら起業だってできちゃいますしね、可能性は無限大です。
何にもない、ゼロベースから新しいアイデアを生み出し形にできること。これは企業選びにおいても、これからの社会を生き抜く戦略においても、欠かせない視点になってくると思います。
自分でビジネスを生み出す経験をする

──ゼロイチを生み出せるようになるためには、何をすればいいのでしょうか?
学生からだったら自分の名刺を作って何かを始めてみるのも良いでしょうね、もうすでに働いているなら副業でも。本業は得意を活かした仕事をして、副業は好きなことを始めてみるとか、もうなんだって良くって、ようは自分でビジネスをする経験をしてみる、ということです。すると何が求められていて、何が求められていないのかが見えてくる。そこからじゃあ何を作ってみようとか、アイデアがどんどん生まれてくると思います。
そのうえで、続けることです。すぐできるようになろうと、あまり思わないほうが良いですよ。ゼロイチって本当に大変なことなので、とにかく始めて、とにかく続ける。継続的な自己投資をし続ける。大変なことかもしれませんが、自分の成長になっていくと考えれば決して無駄になることはありません。冒頭のお話にもどりますが、「朝練」感覚でやっていくのが良いでしょう。これもまた「複利」がだんだんと効いてくるはずですから。それこそ、本業の仕事の方にもね。

不安と批判をエネルギーに新しい一歩を
──それでは、今回が連載最終回ということで、就活生や若手社会人の方に向けて、メッセージをお願いします。
「不安と批判はチャンス」。このことをぜひ覚えておいてほしいです。
新しいことに挑戦しようとしたとき、もっとも恐ろしいのは何の反応もないときです。才能があること、素晴らしいものには必ず肯定的な意見と同じくらい否定的な意見がつくものなので、反応がないというのはとても危うい状態。
一方で、不安な気持ちが胸から湧き出てきたり、周りから止められたりしたらもう、チャンスでしかない。反応があるということは、その先で何かが起きます。それが良いことでも悪いことでも必ずあなたの成長になるし、じゃあもっとこうすればいいんだと、直感を研ぎ澄ませていくことにもつながります。
すべての反応を自分を奮い立たせるためのエネルギー源に変えて、自らの足で、どこまでも歩いていってください。応援しています。

取材・執筆・撮影:小林駿平
執筆・編集 PORTキャリア編集部
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